ポール・トーマス・アンダーソンの作品のモチーフ『サイエントロジー』

『ザ・マスター』では新興宗教としてトム・クルーズやジェニファー・ロペスが信者として有名なサイエントロージーをはじめたL・ロン・ハバードを教祖としてモチーフにしたと述べています。だからといってサイエントロジーのことが延々と述べられているということではありません。あくまでも、教祖としてとてもユニークな存在カリスマ性があって、エネルギッシュな生命力あふれる教祖L・ロン・ハバードにインスパイヤーを受けての執筆になりました。

ポール・トーマス・アンダーソン監督自身はどんな宗教感の持ち主かといえば、カトリック教徒の両親のもとで誕生しながらも、特にカトリックでもなく無宗教状態になっていると語っています。『ザ・マスター』の耳朶拝啓は、まさにL・ロン・ハバードが創始したサイエントロジーが始めたのと同じ時代背景です。

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ダイアネティックス

L・ロン・ハバードの『ダイアネティックス』は1950年に出版されていますが、アメリカでベストセラーになりました。サイエントロジーで実践されているのも「ダイアネティックス」ですが、最初のころは宗教というよりも「これは科学である」と主張していました。

実際に宗教というよりも、自己啓発セミナーに似ているのがサイエントロジーですが、「ダイアネスティック」という言葉は新しく作られた言葉で、ギリシャ語で「~を通して」を意味する『dia』と「魂・精神」を意味する『nous』を組み合わせた言葉で『Dianetics』といいます。 過去の苦痛の経験からくる精神的苦悩、精神的錯乱などの原因を根絶することをダイアネティックスでは目的としていますが、『ザ・マスター』の教祖もまったく同じく、フィリップの過去をどんどん告白させていき、重度のアルコール中毒でありながらもそれをコントロールできるように誘導していく点などがひじょうに映画と似ているといえます。

反応と分析

ダイアネティックスによると、人間の心をふたつの機能に分けて説明されています。それは「反応心」と「分析心」です。「反応心」とは、周囲からの刺激がくることで自分の意思とはかかわりなく不合理に感情や思考を反応させてしまう部分になります。そして「分析心」とは、自分自身で理性的・合理的に考え判断する部分になります。

人間の逸脱した考えや振る舞いそして、心因性の病気の原因は「反応心」にあるとしていて、それを取り除くことがダイアネティックスの目的です。このような点が『ザ・マスター』の中でマスターが試みる”プロセシング”に似ています。実際にサイエントロジーで同じように実践しているかどうかは知りませんが、原因を取り除いていこうとするのを目的としている点で類似点が見られます。

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カウンセリング

『ザ・マスター』でのカウンセリング方法は、「プロセシング」です。瞬きをすることさえも禁止で、とにかく矢継ぎ早やにどんどん質問が繰り返されていきます。そしてその人の心の奥底にあるものを引き出す手法として「プロセシング」が行われていましたが、サイントロジーでは「オーディング」という方法がカウンセリング行為になります。

「オーディング」という言葉は、「audit」つまり「聴くこと」「判定すること」から来ていて、オーディターと呼ばれる施術者がおこないます。そしてオーディターは、過去の苦悩・苦痛の瞬間を何度も再体験するように、促していきます。それは、カウンセリングを受ける側が、まるで今実際に経験しているかのように行うので、過去の視覚・聴覚・味覚・触覚・嗅覚はもちろんのこと、心に記録された情報を呼び起こしていきます。すると、カウンセリングを受ける側は再体験している出来事の状況を詳しくオーディターに話します。心に記憶された情報を呼び起こして、その出来事から不快な本人にとって有害な影響を軽減したり消去していく手法になっえいます。

ポール・トーマス・アンダーソン監督も、もちろん「ダイアネテイックス」を読み込んで自分の作品の中に取り込んでいったのでしょう。当時売れに売れてベストセラーになった背景には、やはり1950年代という時代背景もあったと思います。カリスマ性があったからこそ、L・ロン・ハバードの言葉に注目するひとたちもあり、そして映画とかぶるところは、1960年代の中頃にはサイエントロジーが論争の的になったことです。そのため、小型船舶で8年間地中海を航海して過ごしている点も見過ごせません。そのような視点から『ザ・マスター』を観賞するのもユニークかもしれません。

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