『ザ・マスター』の舞台:1950年代戦後人々が求めたもの

映画『ザ・マスター』内容

ポール・トーマス・アンダーソンが、全米映画批評家協会賞監督賞・ベルリン国際映画祭監督賞などを受賞した「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」から5年ぶりにメガホンを撮った作品『ザ・マスター』は、この作品を見た観客に対して共感を求めようとしない作品です。『ザ・マスター』を鑑賞した後に「何か」を感じるのは作品をみた人に委ねれています。よく分からない作品だという人もいるでしょうが、そもそも、ポール・トーマス・アンダーソンの作品は言葉で伝えるのではなく、映像でメッセージを伝えようとする作品です。そして映像にしか伝えることができないものを、映像を通して伝えようとしている姿勢は一貫しています。

映画監督のポール・トーマス・アンダーソンは、重厚な人間ドラマや群像劇に高い評価がありますが、「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」から5年ぶりとなった『ザ・マスター』を撮ることになった時のインスピレーションになったのは、新興宗教サイエントロジーの創始者L・ロン・ハーバードです。今回の映画のタイトル『ザ・マスター』の意味はまさに『教祖』、サイエントロジーの教祖L・ロン・ハバードが描いた『ダイアネティックス:Dianetics』など、多くのインスピレーションを得たといいます。エネルギーが満ち溢れていて、生命力はたくましく、そして常に多くのアイディアを抱えサイエントロジーの教祖となったL・ロン・ハバードというキャラクター。ただし、あくまで映画を作るためのアイディアであり、作品を作るにあたってインスピレーションを得たものなので、『ザ・マスター』はサイエントロジーについて語られる映画ではありません。

性格のまったく異なるホアキン・フェニックスが演じる青年フレディと、フィリップ・シーモア・ホフマンが演じるカリスマ的素質を持つ男ランカスター・ドッド。そのふたりの男が出会い、青年フレディを操りながらも、「ザ・マスター」の中でフレディの存在はどんどん大きくなっていきます。映画の舞台は1950年代の第二次世界大戦後のアメリカです。

『ザ・マスター』あらすじ(1)

第二次世界大戦から帰還したフレディ・クエル(ホアキン・フェニックス)は、船乗りですが精神障がいを患っています。復員軍人病院でメンタルケアを受けていますが、彼の脳裏にあるものは強烈な性欲ばかりです。第二次世界大戦中に虫垂が破裂してしまったという健康上の原因で軍人を退役して、今はPTSDを抱えているため、メンタルケアを受けながらも、まだ心の平安安定を失っている状態ですが、戦争から帰還した後の日常生活に適応できるようにと、自分自身でもがいている状態です。

PTSDを抱えて、なんとか日常生活に適応できるようにしているとは言えども、実際のフレディの生活はいつも酒に溺れていてビーチでお酒を飲んでは、他の水兵たちと騒がしく過ごしている毎日を送っています。アルコールも、自分でとんでもないお酒を作っていてココナッツの汁、ウィスキー、そしてガソリンを入れてフレディ独自で醸造したものを浴びるように飲んでいます。ビーチでは他の水兵たちとレスリングごっこをしたりするほかは、砂で女性の身体をそっくり作って砂の女性と○△したり、アルコール依存症に加えてセックス依存症になっています。フレディの頭の中には常に「暴力」と「性欲」で占められている状態です。

第二次世界大戦から帰還した後、退役軍人となったフレディは海軍の計らいでキャプウェル・デパートでカメラマンになっていますが、それも海軍の方から「何か目的を持てるような仕事」ということからです。キャプウェル・デパートのカメラマンの仕事について、最初のうちはそれなりにやっていました。でも暗室にフレディお手製の例のスペシャルアルコールを持ち込んでこっそり飲んだり、女性店員のマーサを誘惑したりと、それなりにキャプウェル・デパートのカメラマンワークを楽しんでいます。そのうち、女性店員マーサに関係を求めて攻めていくと、彼女からあっさりと断わられてしまったためカッーーーッ!と頭に血が上ったフレディは、お客さんに八つ当たりをしてしまいお客さんとケンカ騒ぎを引き起こしてしまい、当然ながら解雇されてしまいます。

次の職場はキャベツ農場です。キャベツ農場での仕事も短期間で終わってしまいますが、そこでもフレディは自身お手製のスペシャルアルコールドリンクを、キャベツ農場の同僚の労働者たちと一緒になって飲みますが、同僚はスペシャルアルコールドリンクを飲んで、アルコール中毒で死なせてしまったため、キャベツ農場を追い払われてしまったのです。フレディはキャベツ農場を追い払われて、どこに行く当てもないまま喧嘩好きのフレディは、たまたまウエディングパーティの準備をしている船に密航します。やがて船は出航して、フレディが気づいたときにはすでに船は洋上にありました。

翌朝フレディが目覚めると、フレディは船員に見つかり船底から階上のオフィスに連れて行かれます。そこであるひとりの男と面会することになりました。面会した男は『ザ・マスター』と呼ばれているカリスマ性があり、独自の哲学を持ち、そして多才な男ランカスター・ドッド(フィリップ・シーモア・ホフマン)でした。そして『ザ・マスター』は“ザ・コーズ”という新興宗教団体を率いている大物思想家でもありました。

ザ・マスターは、自分の教えを載せている本をすでに1冊出していて、次作のために新たな情報を収集中です。ザ・マスターが「昨夜のことだか・・君は仕事を欲しがっていたね。」と言いますが、フレディは昨夜自分が話したことはすっかり忘れていて覚えていません。ザ・マスターは、フレディが海軍で船の経験をしたことがあることを知ると、船上での仕事をフレディに与えました。そしてそれだけではなく、「例のお手製のアルコールをもっと作って欲しい」とも依頼します。

当初フレディは、「ザ・マスター」の持つ独特のキャラクター性にのけぞってしまいますが、やがてザ・マスターの元で働くことを了承して、リクエストされたフレディお手製スペシャルアルコールドリンクの件も、今のものよりもさらに強烈に強いスペシャルアルコールドリンク作ることも了承します。

ザ・マスターの娘エリザベス・ドット(アンビル・チルダーズ)の結婚式が船上で執り行われています。エリザベスの夫となる結婚式の花婿は“ザ・コーズ”の信者のひとりでもあるクラーク(ラミ・マレック)です。ザ・マスターにフレディは結婚式場の船首まで招待されました。フレディは船上で行われた結婚式と披露宴を通じて、「ザ・マスター」のランカスター・ドッドという人物が“ザ・コーズ”という新興宗教のカリスマでもあり、そして説得力がある一方で、ランカスターが知らぬ者に対しては、隠れた不信を募らせる持ち主だということをフレディは知るのでした。

“ザ・コーズ”のザ・マスターでもあるランカスター・ドッドには彼を崇拝する人たちが多くいます。その中でもランカスターを一番崇拝しているのは、ラウンカスターの妻ペギー・ドッド(エイミー・アダムス)です。妻ペギー・ドットは、夫がいちばんマイナス思考となっている状況であるときにも「あなたこそが、ザ・マスターだ!」と夫をあたかも操縦するかのように動機付けそして意志付けをしているのも妻の大きな存在となっています。

船上でフレディが働き始めると、フレディは「ザ・マスター」専用のドリンクを作るために必要なものの供給を受けることになりますが、供給を受けたものは「塗装用シンナー」でした。そしてさらにフレディは、ザ・マスターが執り行う儀式ともいわれれる”プロセシング”と呼ばれる試験の実験台になるようにフレディを招くのでした。

”プロセシング”と呼ばれる試験では、患者に対して多数の哲学的質問を何回も何回も繰り返します。そうすることで、患者は突然ガクッッときて過去を手放すようになります。そして今回、同じようにフレディはザ・マスターから質問攻めにあいます。その”プロセシング”でフレディはザ・マスターから質問を執拗に浴びせられます。”プロセシング”の時には矢継ぎ早やの質問だけではありません。瞬きさえも禁止のまさに精神的にも緊張の連続です。

プロセシングでのフレディの告白

そこでフレディが告白したというか、”プロセシング”でのセッションであきらかになったことは、フレディの父親はすでに死亡していて、母親は精神病院に入院していること、そしてかつてドリス・スルスターという女性と恋人同士でありながらも、海軍へ入隊するために彼女を捨てたことも明らかになりました。

フレディの答えに対して、ザ・マスターはフレディの答えに疑惑を感じます。疑惑を感じつつ、さらに質問を続けて質問のレベルを2に上げました。レベル2の質問になると、さらに個人的な質問へ掘り下げていかれました。フレディは、叔母と寝たことまで白状することになります。そして叔母と寝たときには、自分自身がかなり酒に酔っていたこと、そして叔母もいい感じだったから寝たという理由でした。ザ・マスターはフレディの状態がかなり深刻な様子なことを見抜くのでした。

フレディは”プロセシング”を受けたことで、「ザ・マスター」からの影響をかなり受けることになりました。”プロセシング”をうけることで、フレディは今まで自分で制御できなかった感情の爆発が、少しずつコントロールできるようになっていくのでした。そして船が埠頭に着くと、ザ・マスターとその信者たちとともに、フレディは行動をし始めることになりました。そしてそれだけではなく、フレディは“ザ・コーズ”の教義をさらに広めるために“ザ・コーズ”の普及をする手伝いを始めるのでした。アメリカも戦争が終わり、戦後の好景気で沸き返る一方で、PTSDに苦しむ帰還兵や、神秘的な導きを人々は求めていたのです。そして一行はフィラデルフィアで、ザ・マスターの信者ヘレン・サリヴァン(ローラ・ダーン)の家に教義を広めるために滞在することになりました。

フレディは「ザ・マスター」に傾倒

“ザ・コーズ”の信者たちとザ・マスターの一行はフィラデルフィアから東海岸に沿って移動しながら、信心深い女性達の家に招かれながら“ザ・コーズ”の教義を広めていきます。フィラデルフィアで滞在した信者のひとりヘレン・サリヴァンの世話から、ザ・マスターはミルドレッド・ドラモンドのところへと行くことになりました。そこでは大勢の見物人が見守る中で、ザ・マスターはストレスを抱えているミルドレッドへ”プロセシング”を行うのでした。

ニューヨークでの出来事ですが、”プロセシング”を見物していたひとりの見物人が、”プロセシング”のことをあざ笑って「ザ・マスター」の教義に対して多くの疑問をぶつけてきます。たとえば白血病といったような病気はどうやって「ザ・マスター」は治して見せるのだ、と懐疑的な目で「ザ・マスター」の教義を中傷するのでした。すると、その日の夜遅くのことです。フレディは中傷した男の家へ行き男を襲撃するのでした。

このようなフレディの起こした行動に対して、他の信者達はやきもきしてしまいますが、「ザ・マスター」は違いました。フレディの魂を救うことこそが、重要なミッションだと言い張ります。フレディに対して、ザ・マスターの妻ペギーはとにかくアルコールを断つようにと頼みますが、その場ではいちおうフレディは了承するのですが、ザ・マスターの妻が言うことは聞き流しているだけで、全く気にしていません。

いまでは、フレディは「ザ・マスター」のいうことだけしか聞かなくなってしまっているほど、すっかり「ザ・マスター」に傾倒しています。そんなフレディに対して、ザ・マスターの妻ペギーは教団にとって悪い影響を与えるだけだと、フレディの追放を示唆するのでした。

ランカスターの息子のヴァル・ドッド(ジョシー・プレモンス)は、父親のランカスター「ザ・マスター」がフレディに対して、良い待遇をあたえることについて面白く感じていません。今まで血縁関係のある家族だけで“ザ・コーズ”の大事な部分をまとめていただけに、父がフレディが傾倒していることに対して可愛がっていることがどうにも納得できないようです。そこでドットは、父親の秘密をフレディにばらすことにしました。「父は、とかをやっているうちに、適当に教義を作り上げているだけだ」その言葉に対して、もちろんフレディは信じることはできません。

そんな時です!警察がやってきて「ザ・マスター」であるラウンカスター・ドッドを逮捕しにやってきたのです。逮捕した理由は、ラウンカスターが医師免許もないのに、医療行為をしたことが理由です。信者達は警察に対して「こんなのはない!!不当逮捕だ!!」と叫んで連行阻止しようと必死です。もちろんフレディは警察官たち数人に対して向かっていきますが、結局フレディもザ・マスターと同じく連行され留置場に入れられます。留置場では、トイレなどをぶち壊してベットにガンガンと頭を打ち付けるのでした。留置場の隣には、フレディが心酔するザ・マスターがいます。

留置場でひとり暴れているフレディに対して、隣にいるザ・マスターは穏やかに「何百年も前のこと、そうお前の過去は刑務所暮らしだった・・」と語りますが、ザ・マスターの言葉に「うそだーーーー!!」と叫びます。フレディの反発の言葉に対して、ザ・マスターも不愉快になります。2人はとなり合わせの留置場で叫びあうのでした。

フレディは結局ザ・マスターに言いくるめられたようで、ザ・マスターのみ信頼できる人はいないと諭され、フレディは“ザ・コーズ”の信者として服従して従順を続けます。そしてフレディとザ・マスターは留置場から釈放されましたが、“ザ・コーズ”の信者たちはフレディのことを懐疑的に見ているのでした。フレディのことを精神異常者、またはおとり捜査をしている警察官じゃないのか?!ということを思い始め、フレディは不思議な試験をされ続けるのでした。

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